立地評価会議は、技術的観点および社会環境の観点からの評価を行い、全会一致で下記の結論に至った。
記
ILCの国内候補地として、北上サイトを最適と評価する。
なお、北上サイトにおける中央キャンパスは、仙台・東京へのアクセス利便性を有し、研究・生活環境に優れる新幹線沿線の立地を強く推奨する。
川越 清以
杉山 晃
鈴木 厚人
高橋 徹
成田 晋也
宮原 正信
山下 了
山本 均
はじめに北上サイト・脊振サイトの両地域の多くの方々には長年にわたり、ILCという国際プロジェクトに対して、多大なご理解とご尽力をいただきました。今回の立地評価のための資料についても、最大限のご協力をいただいております。あらためて、心より感謝申し上げます。
また、技術評価専門委員のみなさま、社会環境基盤専門委員のみなさまには、大変お忙しい中、非常に限られた期間に集中的な議論と広範な分野にまたがる知見の提供をいただきました。本当に感謝しております。
なお、本立地評価会議では、両サイトの加速器ルートや中央キャンパスの議論において、具体的な地名等、さまざまな固有名詞がでてまいります。また、科学的・学術的な評価を貫くためにも、評価の途中経過について、みなさまに十分にお伝えすることはできませんでした。そのことについては、ご理解いただきたく、お願い申し上げる次第です。
ILC 主な論点
北上サイトおよび脊振サイトはともに立地のための必須条件を満たす極めて優良な地質を持っている。また、両地域からは、ILCという国際プロジェクトについて十分なご理解をいただいた上で、広範にわたる大きな支援を既に頂いている。さらに、ILC研究所を中核とする地域の将来構想が立案されており、ILC研究所と周辺の広域エリアとの共生について、その将来性が高く期待される。両サイトは当初10カ所余りあった国内候補地から選択されたものであり、ともに非常に優れていると評価されてきた。本立地評価会議では、この両サイトについて科学的・学術的な観点から最終的な評価を行った。
技術的な観点での必須要件、社会環境基盤の観点での必須要件は、北上サイトおよび脊振サイトともに、基本的に充足している。ただし、下に記すように、様々な観点でのリスク要因およびコストの増大要因がある。そのため、大きな困難が予見され得る重要なものから、通常レベルのものまで、多くの課題について検討した。
評価は、別紙のとおり、評価に関する基本的考え方に則り、加速器の本体を建設する上での技術的な観点、および中央研究所の立地および周辺の社会環境基盤の観点について行った。
評価に際しては、それぞれの地域における検討により、最適とされた代表的な候補ルート2つずつ、および想定される中央研究所キャンパスの候補を複数個所提案頂いた。まず、各ルート、および中央キャンパスについて、必須要件を満たすかどうか確認した。その上で、実際の建設、運営および研究・社会生活における大きなリスクとなり得る要因、コストあるいはスケジュールの増大につながり得る課題、技術的に特に優れた点、アクセスおよび生活上の利便性などに関して、評価項目に沿って検討した。大きな課題が見いだされた場合、例えば技術的課題に関しては、当初想定のルートの再調整などで回避が可能かどうかを精査した。技術評価および社会環境基盤での評価に関するまとめを以下に記す。また、より詳しい説明を本資料の最後に付記してある。ただし、その説明のなかで、特に狭い範囲で場所を限定される地名等の固有名詞は除いてある。
ILC 評価結果
北上サイトは、ILCの将来性を確保するために国際的に要請されている50kmの直線ルートを確保する上で、許認可、施工上および運用上のリスク、工期・コストなど、技術的観点からの確実性において、大きく優位であると結論された。
具体的には、現時点で活断層と認定されている、あるいはその疑いのある大きな断層とのルートとの位置関係、大型ダムあるいは鉱山跡地等の人工物による立地への制限の可能性、大型河川や都市部など規制や土地取得、あるいは地下利用で予見される困難、地形によるアクセス用トンネルの長さ、停電等非常時に重要となる排水において優位性が認められる。脊振サイトのルートにおいて、特に大きな困難を伴う可能性を持つ課題として、ダム湖の下あるいは近傍を通過することになること、および都市部の下を通過することが挙げられる。北上サイトにおいては、同等の困難が想定される課題は見いだせない。また、地形の違いから、地上から地下へのアクセストンネルの長さが北上サイトは脊振サイトに比較して短く、コストと工期および排水の面で大きな優位性がある。
北上サイトの技術評価における特有の課題として、地震および震災後の変動、積雪の影響がある。日本国内では、どこにおいても常に最悪の状況を想定した耐震設計を行う必要があり、今後の最終の国際設計で注意すべき観点となる。北上ルートでは主な震源地域からの距離、地下における大きな振動抑制効果から、東日本大震災時を含む歴史上記録にある最大の震度(震度5強)をさらに超える震度に対しても、十分に耐震設計が可能な範囲である。震災後の変動は極めて広域のプレート全体でのゆっくりした変動であり、機器の制御運営において支障はないと評価できる。
積雪に関して、当該地域は特に雪の深い地域ではなく、工事に置いても特に大きな支障はないと評価する。
ILC 社会環境基盤評価について
社会環境基盤においては、北上サイトおよび脊振サイトのそれぞれが優位性と課題を持つが、立地に支障をもたらす可能性のある大きなリスクはないと評価する。社会環境のインフラ面において、特に脊振サイトで提案された中央キャンパスのひとつは、最もアクセスと社会生活における利便性に優れている。すなわち、大都市圏に近く、生活環境として極めて高い利便性を持つ。一方、北上サイトは、中央キャンパスの拡張性、新幹線および大型商業施設が隣接する幹線道路での利便性に富む。
外国人に対する対応について、福岡市を中心とした地域は、国内でも東京に勝るとも劣らない国内有数の充実度であり実績も高い。ただし、東京周辺のつくば市や柏市の実態でも、外国からの長期滞在者に対するサポートは、未だに極めて不十分である。インターナショナルスクールは福岡市や仙台市に現存するものでは十分な定員数を持たない。このため、ILC研究所の立地においては、いずれの地域においても、地域と連携し国際化を飛躍的に進めることが必要である。
社会環境においては、利便性と住居費用等の生活コストは相反する傾向を持つ。また周辺の拡張性や自然環境と、生活における利便性、文化施設の充実度などの両立はいずれの地域でも容易ではない。しかし、生活圏からのアクセスにおいて課題が大きい一部の中央キャンパス候補地をのぞき、ひとつずつ課題を解決することで十分に優れた研究環境となり得ると評価する。
以上の評価の結果、全会一致にて上記の結論に至った。
ILC 参考:評点について
評価の経緯で説明した通り、点数付けによる評点の試算を確認のために行っている。参考までに、結果を下に記す。
*以下は、必須要件を満たすという条件のもとでの評価点である。
*階層評価法を用いた。
北上サイト 68点 63点
背振サイト 46点 37点
社会環境基盤評価(総合点) 評価点(個別)
北上キャンパス(A) 60点
北上キャンパス(B) 51点
背振キャンパス(A) 63点
背振キャンパス(B) 55点
ILC 技術評価 総論
評価対象ルートに関して
評価会議には、北上地域からは、ほぼ同ライン上で南北に約10kmずれた二つのルートが提出され、脊振地域からは脊振山地の北部と南部にそれぞれほぼ東西に走る二つのルートが提出された。北上地域では、南よりのルートを第一案とし、以下で北上ルートというときには断らない限りこのルートとする。脊振の北部側のルートに対しては、評価の過程で、大きな課題を回避できるかを検討するために再調整を試みている。脊振における南側ルートは、地震調査研究推進本部(2012年)によりB級活断層と認定された佐賀平野北縁断層帯の楮原断層を横切っていることから、必須条件を満たしていないと評価し、北側のルートを精査した。(※なお、脊振サイトの南側のルートに関しても北側のルートと同様に、地盤や他の観点でのリスクを検討した。その結果、上記の活断層帯の評価以外に近傍のダム湖の影響、他の断層や、蛇紋岩を内包する三郡変成帯など他のリスク要因も指摘されている)。
<北上ルート>
ルート全般の岩盤は、優れた安定性を持つ北部の花崗岩地域(50kmのルート上で北部の約46km)と、一部熱変成を受けた南部の堆積岩地域により構成される。北部の花崗岩地域に比べると南部の堆積岩・変成岩地域は亀裂やリニアメントの頻度が高いが、岩質は固く工事に特に大きな支障は推測されない。
地質及び、住居・ダム・温泉・都市等規制区画・人工震動源・自然公園・現存の鉱区設定など、地上用地取得・地下利用・環境アセスメント上で支障となる特筆すべき課題はクリアできている。最も近接した活断層は北上低地西線断層帯であり、ルートから約20km離れている。
北上ルートは地形の関係により衝突点を周囲の河川よりも高い位置に構築することが可能であり、加速モジュールのある主トンネル部分を水平面に対して中心に向け(BDS: Beam Delivery Systemとスムースに接続する形で)0.05%程度傾斜させることで、トンネル全域にわたる湧水を衝突点空洞に集め、そこから自然排水を行えるという大きな利点がある。原案より更に30m程度深いトンネル高度まで自然排水が可能である。2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震により大きく歪んだ国土がゆっくりと戻りつつあるが、この変位は全体構造の移動であり、ルート全体の変形は数メートル以内に留まると想定されるため、ビーム軌道の制御で十分に追尾できる(ILCでは当初より垂直方向には水平面に沿って10m以上の直線からの変化をビーム制御する)。公開されている既存データに加え、本計画のために十分な活断層・断層・リニアメント調査が行われ、ルートを横切る活断層候補およびルート付近で震源となり運用時に支障をもたらす可能性が高い、あるいは活動性が高いと予見される断層も認められていない。地質上重要な評価対象となった花崗岩地域のくびれ部ではこれまでのボーリング・電気・重力探査等の調査から岩盤の不連続性は見られず、施工上の問題はないと判断する。冬期の積雪に関しては、当該地域は特に雪の深い地域ではなく、通常の範囲での除雪作業は必要になるが大きなコスト増とはならないと想定される。
加速器の運転に必要となる電力供給量および配電にも支障はない。周囲においては、大型貨物に関しての優れた港湾施設を持つ仙台塩釜港を有する。仙台塩釜港・釜石港・大船渡港などからの資材輸送のための道路は、一部の小さな改変箇所を除き、特段の大きな改変や付け替えは必要としない。
北上ルートには許認可での大きな困難があり得る、あるいは十分な対策のために準備期間・特殊工法、更にそのための大きな追加コストが必要となると予測されるリスク要因は、現時点では認められない。
北上ルートで挙げられる主なリスク要因を以下に示す。
- 50kmの北上ルート全体で、トンネル直上(両側にそれぞれ幅50mを取る場合)に民家がおよそ150軒程度ある。特に河川と交差する地域に土被りが小さいところがあり、そこでは公共施設を含め住宅地等が40軒ほど集中する。住民・地域からの理解とともに、工事時の発破振動などが住民生活へ影響しないよう工法に配慮が必要となる。また、地下水利用などへの影響がないように留意が必要である。
- 特に、東北地方太平洋沖地震以降、全国平均と比較して地震の頻度が高い。耐震設計はいずれの地域に設置する場合でも同じであり、地下の安定性は地上よりも高いが、地上施設の耐震設計に不具合がないことを更によく確認する必要がある。
また、あらかじめコスト増が見込まれる課題は以下の通りである。
- 河川の一つと交差する地域の土被りが、原案ではトンネル掘削上面から川底岩底まで約20mとなっているところがある。川幅は数mと小さいが、現地調査において、一部深さ方向で20m程度の風化の進む箇所が見られている。このため、弱い地質箇所での止水工法でのコスト増加、あるいは深度を更に取る場合にはアクセストンネルの延伸(10m深くするごとに全アクセストンネルの総延長で約1km分延びる)によるコスト増加が見込まれる。
- 上記の地点は衝突点から約1,800mの距離にあり、振動がビーム品質に影響しやすいBDS(Beam Delivery System)部分である。ここでは、国道343号線がトンネルとほぼ直交しており、原案では土被りが道路からトンネル上部まで20m程度である。現在昼間において、大型ダンプも含め1時間当たり300台程度の交通量がある。この交通による振動が加速器のビーム制御に与える影響は計算の結果問題ないと評価されるが、将来の交通量の急増の可能性も含め、振動を局所的に吸収する工夫などが設計上必要になる可能性は排除されない。この場合はそのためのコスト増が見込まれる。
- 自然排水をトンネル全体にわたり可能とするために、加速器トンネルおよび加速器を最大勾配制限である0.5%の1/10に相当する0.05%傾斜させることで、加速器システムに与える機器のコスト増が想定されている。TDRでの設計と同じシステムで液体ヘリウム配管の繋ぎ換えはしないが、主要コスト増要因はモジュール内の2層式ヘリウム輸送パイプの径を数10%程度拡張することによるものと想定される。
さらに、通常の大きな地下空洞の施工と同様に、中央の大空洞部分での地中応力の方向および大きさを反映して設計・施工計画を進めることが必要である。
また、鉱山に関しては、現存する鉱区はルート上に設定されていないが、歴史上鉱区が設定されたことがある箇所は存在している。古い坑道は記録が明確ではなく、記録が不明確あるいは記録が無い旧坑道が付近に存在する可能性は排除されない。存在する場合には、歴史的に十分古いために小さい手掘りの坑道である場合が多いと想定できるが、先進ボーリング等で調査しながら掘削することが望まれる。なお、この手法は、運営時での自然排水ができる利点を建設時にも拡張し、より安全・安定した施工を施すことにも役立つ可能性がある。
<脊振ルート>
このエリアでのルート選定は、地震調査研究推進本部(2012年)によりC級活断層と評価された日向峠−小笠木峠断層、そしてダム湖と海岸線によって制限されている。
脊振ルートは全体の岩盤として良質の花崗岩と古第三紀の堆積岩により構成される。東側約45kmの花崗岩地域は、断層破砕帯以外の区間でB-Ch級の安定・良質な岩盤が広く分布することが想定される。中央空洞の候補地点付近で行った300mのボーリング調査によると、地表から13mの埋土、風化部をのぞいて深部300mまですべて良質な花崗岩であり、電磁探査の結果とも一致した。西側約5kmの堆積岩は古第三系であり、固結度も十分に高く、亀裂も少ない良質の岩質を有しているため、工事に特に大きな支障は推測されない。
九州は活断層の調査検討が他に先駆けて多数行われてきた地域であり、さらに脊振北部の広い領域でILCのための新たな調査が行われた。これまでの写真判読および踏査等の詳細な調査から多くの断層およびリニアメントが確認されているが、ルートを横切る活断層や大規模な破砕帯は確認されていない。
加速器の運転に必要となる電力供給量および配電にも支障はない。大型貨物に関しての優れた港湾施設を持つ博多港と伊万里港を周囲に有する。博多港・伊万里港・唐津港などからの資材輸送のための道路は、一部の小さな改変箇所を除き、特段の大きな改変や付け替えは必要としない。
脊振ルートにおいては、許認可での大きな困難があり得る、あるいは十分な対策のために準備期間・特殊工法、更にそのための大きな追加コストが必要となると予測されるリスク要因として、特に下記の2点が挙げられる。
A. 市整備区画および川幅のある河口付近との交差部において、施工認可手続き等、事前許認可に要する準備期間のリスクが想定される。
B. ルートが、大量の水を擁するダム湖の喫水域の下を通過することから、ダム機能保全およびトンネル施工・運用上の双方の観点から許認可手続きに困難が予想される。認可が得られた場合も完全な止水を期すために注入工法等での大きなコスト増が見込まれる。
脊振ルートで挙げられる、上記以外の主なリスク要因を以下に示す。
- ルート東端5km程度は日向峠−小笠木峠断層の手前で断層が複数見つかっている領域に入るので注意が必要である。
- 斜坑(10%勾配)でのアクセストンネルの中で最長のものが3km以上になり、工期に与える影響が大きくなる可能性がある。
- ルート直上に民家が集中する地域があり、土被りが小さいところでは、住民・地域からの理解とともに、工事時の発破振動などが住民生活へ影響しないよう工法に配慮が必要となる。
- 特に旧炭坑周辺では可燃性ガス等、有機性のガスへの特段の注意が必要となる場合が想定される。
- 地下施設が一部海抜以下となり、トンネルの傾斜により湧水の流れつく場所の地形の関係からも自然排水はできない。このため、特に運用時における長期停電時や大量湧水に対する冠水対策が必要になる。
- 海岸付近のルートが海抜下であるための塩水を引き込む可能性があり、排水等での特殊な対応が必要となり得る。
また、あらかじめコスト増が見込まれる課題は以下の通りである。
- 地形によりアクセストンネルおよび空洞への連絡トンネルが長くなるため、その分のコスト増が想定される。
- 地形によるアクセストンネルの長さをできるだけ短くするために、加速器トンネルおよび加速器を最大0.5%斜傾させる。この場合はでの設計である9モジュールで一式とする二層式のヘリウム輸送管がそのままでは液面が連続しないが、運河のように各モジュール毎で敷居を設けたシステムで対応することが技術的に可能であると算定されている。主要コスト増要因はモジュール内の2層式ヘリウム輸送パイプの径を数10%程度拡張することによるものと想定される。
- 幅の広い河川と交差する地帯での特殊工法によるコスト増が見込まれる。
- アクセストンネルの坑口の地形から一部坑口候補地で地上用地の取得が広範にわたる可能性がある。
さらに、通常の大きな地下空洞の施工と同様に、中央の大空洞部分での地中応力の方向および大きさを反映して設計・施工計画を進めることが必要である。
また鉱山に関しては、ルート上、特に西部の旧炭坑地域に関しては、付近に坑道の記録が多数存在する。記録上はルートと旧炭坑の坑道が接することはないが、長い歴史の間で整理された坑道掘削の記録は実際の採掘状況と一部異なっている可能性は排除されない。付近の旧坑道部分が埋設されずに残っていて水がたまっている可能性がある場合には、そこからの突発湧水の可能性に留意した施工が必要となる。先進ボーリング等で調査しながら掘削することが望まれる。これは有機性のガスが懸念される旧炭坑地域での安全にも寄与すると考えられる。
ILC 社会環境基盤評価 総論
本評価総論は、情報保護の観点から、固有名詞や地域が特定される情報が除かれており、要点のみを記載した簡略な内容となっている。中央キャンパス候補地として、それぞれのサイトから複数の候補地が提案された。評価会議において全ての候補地に関して評価検討を行ったが、そのうち、交通インフラや都市環境への近接性に富む候補地(A)と加速器ルートにより近い候補地(B)という特徴をもった候補地について、それぞれのサイトで評価した。
北上サイト:
北上サイトでは4つの中央キャンパス候補地が提案された。そのうち、上記方針による(A)、(B)の2箇所について集中的に検討した。
1)地政学的ビジョン、中央キャンパスの整備および将来の拡張性
候補地(A)、(B)とも、豊かな自然に囲まれた広大な用地が確保できる。候補地(A)、(B)それぞれで最大300haおよび460ha程度の拡張性の高いキャンパスの建設が可能である。開発においては、一部転用手続きが必要となる箇所があるが、開発にあたって大きな支障は予想されない。候補地(A)は市街地域にも近く、キャンパス周辺地域、仙台、東京を背景とし世界に向けた発展性が期待できる。候補地(B)も同様の発展性が期待できるが、市街地域への利便性に乏しいことが難点である。
2)中央キャンパスの運営
候補地(A)、(B)ともに、短期宿泊施設としては、近隣市街地の既存施設が使用可能であるが、想定必要室数に満たないため、新規に整備する必要がある。
長期滞在者用住居に関しては、候補地から30km圏内に住居環境がある程度整っている。しかし、ILC研究所に関係する外国人をはじめ多様な生活様式、嗜好を持つ長期滞在者へ対応するためには、計画的な都市作りが必要である。当初は仙台等、近隣の大都市からの通勤も考慮に入れる必要がある。主要駅からキャンパスへの公共交通機関によるアクセスは、在来線利用もしくは研究所が主要駅-キャンパス間のシャトルバスを運営することが考えられる。
自動車による移動のための道路は現状でもおおむね整備されているが、キャンパスへのアクセスのために道路の拡幅工事、橋梁の補強工事等が必要である。
3)生活環境・利便性
候補地(A)、候補地(B)ともに、生活圏内に幼稚園と小学校は広く分布しており、中学校高校は市街地を中心に多数存在する。既存の保育所も地域内に広く分布しており受入体制は整っている。地域内には、医院、総合病院、救急病院といった各種医療機関も整備されている。キャンパス周辺の市街地域にはスーパーマーケットや大型ショッピングセンターが立地している。新幹線を利用した範囲の仙台市まで含めると、生活に必要なサービスはほぼ全てまかなえる。海外からは、成田/中部空港経由で仙台空港から鉄道を利用する経路と羽田空港から鉄道を利用する経路が考えられる。外国人対応の住居環境、教育、医療、そして図書館などの文化施設は現状では不十分である。インターナショナルスクールは現在仙台に1箇所あるのみで、将来は生活圏内に新設されることが望まれる。外国人向けの住居は賃貸で家具付きのものが必要になり、新規に整備する必要がある。
4)生活の質の向上
近隣には世界遺産の平泉があるほか、歴史的文化的な風土が豊かである。日本を代表するスキー場や温泉が日帰りドライブの範囲内に多数存在している。自然景観にも恵まれ、本格的な高山トレッキングのできる山々も近くに存在する。
脊振サイト:
脊振サイトでは、交通インフラや都市環境への近接性に富む候補地(A)と加速器ルートにより近い候補地(B)の2つの中央キャンパス候補地が提案された。
1)地政学的ビジョン、中央キャンパスの整備および将来の拡張性
候補地(A)は、生活圏に福岡市中心部を含み、社会インフラがよく整備された環境にある。高速道路や鉄道駅とも近く、交通の利便性がよい。近隣に九州大学、生活圏に福岡市中心部を含み、アジアに開かれたキャンパスとしての発展が期待できる。この区域で自治体が進める開発計画により、オーダーメイド方式により用地取得・整備を行うこととしており、用地取得は比較的容易であると考えられる。最大100ha程度の用地を確保できるが、隣接した土地での拡張性は難しい。インフラ整備に関する問題はない。
候補地(B)は、加速器ルートに近く、鉄道駅にも直結しているという利便性を持つ。海と山に恵まれた風光明媚な環境にあり、自然と共生したキャンパス作りができる。最大で100ha程度までの拡張性を持つ。土地のほとんどは農地であり、農振法と農地法の規制を取り除く必要がある。しかし県が事業主となって整備することにより認可の問題は容易に解決できる見込みである
2)中央キャンパスの運営
候補地(A)では生活圏に福岡市および周辺の中規模都市を含む。この地域においては、短期滞在者の多様なニーズに対応できるだけの十分な宿泊施設が存在する。また、長期滞在者用の住居についても、福岡都心部のマンション、郊外の広めの戸建て住宅など、多様な生活スタイル、ニーズに応える賃貸住宅等が既に多数整備されている。ただし、外国人向けの宿泊施設、住居については、さらに充実を図る必要がある。人口が増加し、新規の宿泊施設や住居が多数着工されている地域であり、自然な流れのなかで整備を進めていくことができる。鉄道網や道路網も整備されており、交通の利便性は極めて良い。また、福岡国際空港へのアクセス利便性も極めて高い。一方で、生活費にかかるコストはやや高めである。
候補地(B)では、短期滞在者の宿泊施設として近隣の既存施設を利用できる。また、福岡市までを含めると、様々なニーズに合わせた充分な数の宿泊施設が存在する。国内外の訪問者は福岡空港から鉄道で乗り換え無しで辿り着くことができる。長期滞在者用の住宅、特に外国人の満足できる高品質住居については、新規開発整備が必要不可欠といえる。研究所への通勤は、鉄道および自家用車いずれの場合もインフラが整備されており問題ない。
3)生活環境・利便性
候補地(A)では、居住地区の商業施設、教育機関、保育施設、医療施設など、基本的なサービス環境は整っている。福岡市全域を含めると、文化施設、宗教施設も含め、さらに多様なサービスが整備されている。また、インターナショナルスクールもあり、外国人研究者・職員にとって大きなメリットと言える。ただし、将来的な定員不足が予想されるため、拡張または新設が必要になる。福岡市は外国人対応について十分な実績を持つ地域である。ただし、それに加えて研究所が外国人研究者・職員とその家族に特化したサービスを行うことは必須である。ただし、外国人の就労機会はさらに開拓する必要がある。
候補地(B)は、海と山の自然に近く、ゆとりある生活環境を提供している。日本人にとっては地方都市で受けられるサービス、施設が過不足無く整っており、子供の教育や医療に関して基本的なサービスを提供できる。さらに福岡市という大都市の機能も活用することで、生活に必要な機能をほぼ賄うことができる。しかし、外国人研究者家族が生活する上では、インターナショナルスクール、外国人対応医療施設や配偶者の就労機会など今後対応しなければならない課題が存在する。
4)生活の質の向上
キャンパス候補地および居住地域は、海浜、山地のいずれにも近い。観光資源に富み、マリンスポーツなども盛んである。また、陶芸など文化的な趣味に興じる機会も用意されている。福岡市には多様な娯楽遊興施設があり多種多様な要望に対応できる。福岡・佐賀だけでなく、九州全域には多くの温泉地と観光地がある。
ILC 立地評価会議・技術専門委員会
専門委員
秋田 勝次 鉄道建設・運輸施設整備支援機構
芥川 真一 神戸大学
石川 達也 北海道大学
岩尾 哲也 高速道路総合技術研究所
太田 岳洋 鉄道総合技術研究所
大西 有三 関西大学
金折 裕司 山口大学
金子勝比古 北海道大学
小山 倫史 京都大学
清水 則一 山口大学
清木 隆文 宇都宮大学
徳永 朋祥 東京大学
西村 和夫 首都大学東京
真下 英人 土木研究所
安原 英明 愛媛大学
山崎 晴雄 首都大学東京
ILC 立地評価会議・社会環境基盤専門委員会
専門委員
吾郷 貴紀 専修大学
朝倉 康夫 東京工業大学
浅田 義久 日本大学
石川 幹子 中央大学
小澤みどり 東京大学
岸井 隆幸 日本大学
小林 潔司 京都大学
高橋 孝明 東京大学
宅間 文夫 明海大学
堤 盛人 筑波大学
羽藤 英二 東京大学
渡邉 和男 筑波大学
国際レビュー委員
Eckhard Elsen (DESY)
Lyn Evans (Chairman, Imperial College,London)
Mike Harrison (BNL)
Alain Herve (University of Wisconsin)
Vic Kuchler (FNAL)
Hitoshi Murayama (LBL/Kavli IPMU)
John Osborne (CERN)
Marc Ross (SLAC)
Steinar Stapnes (University of Oslo/CERN)
Daniel Schulte (CERN)
Harry Weerts (ANL)
Akira Yamamoto (KEK)