生活再建より公共事業 三陸沿岸道、巨大な実験施設…

東日本大震災からの生活再建がままならない被災地で、復興に名を借りた大型公共事業の計画が相次ぎ復活してい る。これまでは費用対効果が悪いと延期されたり、構想止まりだったりした計画が多い。財源は年明けから始まる所得税の復興増税などだ。住民や専門家から は、地元自治体が維持管理する将来の負担増などへの懸念や効果への疑問の声が上がる。 (木村留美)

青森県から福島県まで太平洋沿岸で計画が進む「命の道」。岩手県の復興計画などで、命を守る道路と位置付けられ、三陸沿岸道路(仙台市-青森県八戸市)など主な三幹線だけで二百二十四キロが整備される。

しかし、三陸沿岸道など岩手県内の計画が練られたのは一九七〇年代後半。現在でも生活道路としてつながっており、財務省幹部は「造っても利用者が少ないとみて長年放置されてきた区間が含まれている」と明かす。

それなのに、震災後は復興道路の名目で、本年度は三陸沿岸道に千二十一億円、宮古盛岡横断道路に百十三億円、東北横断自動車道釜石秋田線に百十四億円の予算が付いた。三陸沿岸道の全線開通までの事業費は一兆円ほどを見込む。

一方、沿岸部から三十キロほど内陸の岩手県一関市や奥州市にまたがる北上山地では、国際協力で進められる巨大実験施設「国際リニアコライダー」の 誘致に県などが動きだした。地下約百メートルに最大で全長五十キロのトンネルを建設し、宇宙誕生直後の状態を再現する。二〇一〇年代後半の工事開始を目指 す。

施設建設だけでも日本の負担は四千億円の見通し。二十年来の誘致構想だが、従来は予算不足が壁だった。一関商工会議所の幹部は「復興予算との合わせ技でなければ計画は実現しない」と説明。県の担当者も「予算の名目は何でもいい」と誘致実現を期待する。

ただ、地元の反応は歓迎ばかりではない。一関市内で商店を経営する女性(52)は「街は活気づくだろうけれど、ここが被災地かと言われればそうと は思わない。復興とは違う気がする」と冷ややかだ。岩手県大船渡市の復興計画に携わる神戸大の塩崎賢明名誉教授は「出来上がったインフラを維持管理するの は自治体だから、甘い見通しで身の丈を超えた公共事業に取り組むのは被災地にとって危険だ。担当が数年で代わる役人は結果の責任をとらない」と述べる。

住民不在の復興で公共事業が加速した状況は、阪神大震災後の神戸市でも顕著だった。「創造的復興」を合言葉に開港にこぎつけた神戸空港は、利用者数 が需要予測に届かない。二千七百億円を投じた神戸市長田区の再開発エリアは、店舗が少なく閑散とした「ゴーストタウン」と呼ばれている。

震災復興予算に詳しい早稲田大学の原田泰教授は「神戸復興の惨状をみれば、効果のないことに税金を使うより、元の状態に戻す復旧を目指すべきだ」と指摘する。

東日本大震災では一一年度からの五年間で「少なくとも十九兆円」の復興予算が組まれ、そのうち十兆円は来年一月から二十五年間にわたる所得税増税などでまかなわれる。