ILC候補地決定/誘致実現へ本番これから

河北新報

 

東北の産学官が目指す最先端の国際研究拠点の誘致が、実現に向けて前進した。
宇宙の起源に迫る超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」について、研究者組織のILC戦略会議が岩手県南部と宮城県北部にまたがる北上山地を国内候補地に選んだ。
もう一つの候補地となっていた九州の脊振山地と、地質などに絡む建設技術や生活環境といった社会基盤について比較・検討の末、全会一致で「北上が最適」と判断した。
ILCは世界に1カ所だけ建設される。他国に具体的な誘致の動きはなく日本の候補地が世界の候補地となるだけに、絞り込みの行方が注視されていた。
とはいえハードルを一つクリアしたにすぎないのも事実だ。今後は国が正式な誘致に乗り出すかどうかが焦点となる。
ILCは全長31~50キロの地下トンネルに設置する直線形の加速器で、ほぼ光速まで加速した電子と陽電子を正面衝突させ、宇宙誕生直後を再現する。
建設費だけで8300億円に上る。研究者間では建設国が半分程度を、研究に参加する他国が残りを分担するとされているが、実際の負担割合は日米欧など政府間の交渉で決まる。
加えて「日本の負担が増えれば他分野の科学技術予算が圧迫されかねない」と懸念する研究者もいる。
文部科学省の諮問を受けた日本学術会議がILC計画について「学術的な意義は認められる」としながらも、「現時点での誘致表明は時期尚早」との見解をまとめた背景にも、こうした事情がある。
このため正式な誘致表明までには数年を要するとの見方も出ているが、政府はまず、国際交渉に入る意思を明確に示してほしい。
学術会議もILC戦略会議も最終的な誘致是非の結論を待たず、資金分担などの協議を先行させる必要性を唱えている。世界を主導する姿勢が政府には求められる。
岩手、宮城両県をはじめ東北の産学官が果たす役割も格段に大きくなっていく。
ILCには建設段階から世界各国の研究者と家族が集まる。研究施設を中心に国際都市をどうつくっていくか。外国人の居住環境を含めた受け入れ態勢など具体的な計画が必要となる。
何より国民的な関心を高めて、巨額投資に対する理解を広げる努力が欠かせない。
産学官組織の東北ILC推進協議会はILCを東日本大震災からの「復興の象徴」と位置付ける。建設から30年間の経済効果を4兆3000億円と試算しているほか、医療をはじめさまざまな産業への波及も見込む。
こうした効果や建設の必要性を、シンポジウムなどを通じて東北のみならず日本各地に伝えていくべきだろう。
国内初の国際的な研究施設となるILC誘致実現に向けて、日本の科学技術に対する姿勢と国際交渉力、国民的理解の深化が問われている。