建 設に8300億円を要する巨大加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の国内候補地は、激しい誘致合戦の末に岩手・宮城両県の北上山地に軍配が上 がった。今回の選定によって計画が前進すると研究チームは期待するが、文部科学省は「参考にする」と突き放した姿勢を崩さない。費用の分担などに不確定要 素は多く、計画が実現するかも見通せない。
▽明暗
「割り切れない気持ちだ」。佐賀県庁で 古川康 (ふるかわ・やすし) 知事は悔しさをにじませた。一方、岩手県庁では担当職員が「復興にもつなげたい」と笑顔を見せ、明暗を分けた。
国内候補地は2010年に北上山地と佐賀・福岡県境の 脊振 (せふり) 山地の2カ所に絞り込まれ、それ以来、地元自治体や経済界は誘致を競っていた。
23日、発表会場の東京大。九州のメディアを中心に、脊振山地が漏れた理由に質問が集中した。
チームは、工事のしやすさなど主に技術的な評価で大きな差がついたと強調。トンネルへのアクセスのしやすさなどの違いによって、工期に最大で数年の差が出るとの試算も例示したが、落選の大きな要因とされたダム湖の名前を会見で公表しないなど歯切れの悪さも目立った。
チームは「重要なのは、なぜこういう評価になったのかを地元に理解してもらうこと」とするが、会見では地元の了解が得られていないことを理由に説明を拒む場面も多々あった。「ダム湖の存在は最初から分かっていたはずだ」などと反発する九州側の理解を得ることは難しそうだ。
▽負担80%
ILCは欧州合同原子核研究所(CERN、スイス)の円形加速器LHCの後継機。LHCが昨年、万物の重さのもととなるヒッグス粒子を発見したため、ILCの注目度も一気に高まった。
技術的にも難度は高いが、最もネックとなっているのは巨額な費用。人件費などを含めると1兆円を超える。日米欧などでどう分担するかは白紙のままだ。
予算に余裕のない米国や欧州も政府レベルで参加を決定しておらず、世界の研究チームは日本の誘致を当てにする。一方、日本学術会議は「日本の負担が80%以上となる可能性もあり、他分野の研究予算を圧迫しかねない」と警戒を強める。
文科省の依頼を受けて審議した学術会議は「現時点での誘致は認められない」との方針とみられ、政府が誘致するかどうかを判断するまでに数年はかかるとの見方が強まっている。