ILC誘致候補地、脊振山地落選に不満

読売新聞

科 学者組織の評価で、宇宙誕生の謎に迫る大型実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の国内候補地として北上山地(岩手、宮城両県)が最適と 発表された23日、脊振山地(佐賀、福岡両県)への誘致に官民一体で取り組んできた県内の関係者は落胆し、選定理由に不満をあらわにした。

県 庁では、古川知事やILC誘致を推進してきた佐賀、唐津、神埼各地区の推進協議会の幹部ら約30人が集結。午前9時半頃から、大型モニターで動 画サイト「Ustream(ユーストリーム)」による科学者組織「ILC立地評価会議」の記者会見(東京)の生中継映像を見つめた。

開始か ら約10分後、「建設候補地は北上山地が最適」と発表されると、関係者は一斉に顔を曇らせた。モニターを見ていた古川知事は、ぶぜんとした表情を浮かべ た。脊振山地が選ばれなかった理由として、活断層の存在などが挙げられると、県庁に集まった関係者からは、「北上山地の調査は十分に行われているのか」と いう声も漏れた。

県は2月にILC推進グループを庁内に新設し、県民向けのパンフレット作成や国会議員への要望活動などを続けてきた。

古 川知事は報道陣に対し、「学者グループが検討した結果なので、尊重して、理解しないといけないという気持ちはある。だが、割り切れない」と納得いかない様 子。脊振山地の活断層の評価については、「政府が示した厳しい新基準による活断層の調査結果が示されたのは九州だけの状況。福岡県側と調整し、 きちんとした説明を聞きたい」と強調した。

県庁で生中継を見た唐津地区のILC推進協の会長を務める宮島清一・唐津商工会議所会頭も「誘致 に向けて、産学官が連携して活動してきたのでがっかり。活断層の評価に関しては、『それでいいのか』という思いはある」と指摘。同じく県庁を訪れていた神 埼地区の推進協代表の神埼市商工会の古賀義治会長 は、「建設が決まれば、長期間にわたる経済効果が期待でき、地域も活性化すると考えていたのだが……」と悔しさをにじませた。

唐津市の坂井俊之市長もコメントを発表。「市民が大きな期待を感じていたので残念な結果。評価の詳細な説明を聞きたい。誘致活動を通じ、市民が科学技術に高い関心を持ったことは有意義だった」とした。

2009 年にスイス・ジュネーブにある素粒子物理学の世界的な研究拠点・欧州合同原子核研究機関(CERN)での研修に参加した佐賀西高の野田亮教頭は「残念だ が、仕方ない」としながらも、「国内にILCができれば、最先端科学と子どもとのかかわりが近くなり、大きな効果が表れてくる可能性があ る」と話した。

ILC「復興原動力に」 候補地に北上山地

読売新聞

宇 宙誕生の謎に迫る巨大実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の国内建設候補地について、岩手、宮城両県にまたがる北上山地を最適とする評 価結果が23日、公表された。誘致に取り組んできた県内の産学官関係者からは「震災からの復興の原動力になる」と喜びの声が上がった一方、「まだ登山口」 「政府に働きかけを続ける」と国の誘致決定に向けて、課題の多さを指摘する意見も聞かれた。

◇県「喜びより責任」 政府に働きかけも

・県

県庁で同日開かれた記者会見。大平尚・県首席ILC推進監は、「喜びよりも責任の重さを実感している。日本への誘致を進めるよう、政府に働きかけていきたい」と表情を引き締めた。

県 は7月下旬、外国人研究者への対応を視野に、医療、教育、まちづくりインフラ、産業振興のチームを編成。課題の抽出や作業の優先順位の確認など を進めている。大平首席ILC推進監は、「建設までの間にやればいいこと、今からやらなければならないことを整理しなければ」「立地評価会議の研究者に相 談し、地元で早急に行うことを精査したい」などと述べた。

全長50キロの地下施設と、キャンパスを抱えた計画の地質調査に触れ、「(誘致の)正式決定は後でも、調査は着手すべき、してほしいと(国に)要望することも考えられる」と語った。

◇知事「東北の未来に希望」

海外視察中の達増知事は県庁を通じて、「震災からの復興に取り組む東北の人々にとって、未来への希望を感じさせるニュース。関係自治体などと緊密な連携を図りながら、受け入れ態勢の整備などに全力で取り組んでいく」とのコメントを発表した。

◇「推進室」新設決める

・一関市

一関市では勝部修市長やILC誘致担当職員らが特別会議室に集まり、ILC立地評価会議の記者会見の様子をインターネットの動画配信サイトで見守った。

勝 部市長は記者会見で、「市長就任前の県職員時代から20年来携わってきた取り組みが実現に近づき、うれしい。この地域には世界遺産の『平泉』が あるので、世界の頭脳が集まるILCが建設されれば、世界の財産を二つ持つ地域になる」と喜び、「基礎自治体としての役割がさらに重要になる。奥州市や気 仙沼市と連携を大事にしたい」と述べた。その上で、「登山口に来たところ。まだ登っていない」と付け加えた。

市は23日、ILC推進室の新設を決めた。専任職員2人を含む11人体制で臨む。

・奥州市

奥州市役所の庁舎出入り口などには午前10時頃、「祝 東北がILCの建設候補地に決定!」と書かれた紙が貼り出され、市はホームページでも決定を伝えた。

小沢昌記市長は、取材に対し「今後は、海外の研究者らを受け入れるため、特に医療や教育施設の充実に努めたい。日本が科学技術の分野で世界に貢献できるよう、市民らの意識をさらに高めたい」と述べた。

奥州商工会議所の千葉龍二郎会頭も、「東北復興のシンボルとして一日も早い計画の具体化を期待したい」とコメントした。

・盛岡市

盛岡市の谷藤裕明市長は、「北上山地の立地条件が高い評価を受けたものと満足しております。今後は、国が早期に日本への誘致の判断を下すよう、県市長会等を通じて、国に対して強く働きかけてまいります」などとする談話を発表した。

◇大学挙げ支援へ

・岩手大

国内候補地に北上山地が決まったことを受けて、岩手大学の藤井克己学長は記者会見を開き、「これまでの取り組みが日の目を見た」と喜びを語る一方、「(誘致決定という)次のステージに向かってのスタートになる」と気を引き締めた。

同大は、学内にILC推進会議を作るなど、誘致の機運を盛り上げてきた。今後は「学内に地盤の研究者もおり、現地設計で役立てるのではないか」「インターナショナルスクールといった環境整備もサポートしたい」などと、大学を挙げて支援する考えを示した。

[国 際リニアコライダー]電子と陽電子を光の速さ近くまで加速、正面衝突させ、宇宙の始まりであるビッグバンから1兆分の1秒後の状態を実験で再 現する。暗黒物質の候補となる素粒子探索のほか、ヒッグス粒子の性質を詳しく調べることなどができる。高エネルギー加速器研究機構が、建設に必要な研究開 発費を毎年20億円程度投じている。2011年度には北上、脊振山地の地質調査費に約5億円を計上した