国際リニアコライダー(ILC)の世界唯一の建設候補地に本県南部の「北上山地」が選定された。ILC計画の浮上から候補地選定に至るまでの経過を振り返る。
【1990年代】
▽国内素粒子研究者らが、大型加速器建設計画に関連し、北上山地の花こう岩帯に着目
【1995年】
▽岩手を会場に素粒子物理学の学会が開かれ、ILCの前身計画であるJLC計画が示される。県は庁内に「科学技術振興室」を設置、水面下の情報収集を開始
【1999年】
▽水沢出身の政治家・椎名素夫氏が代表を務めていた国際経済政策調査会(PSG)が「加速器科学研究会」を設置。情報収集や学習機会を設ける
【2003年】
▽日本国内の具体的候補地10カ所余りが国際会議などを通じて公表される
【2008年6月】
▽国内の産学連携組織「先端加速器科学技術推進協議会(AAA)」が発足
【2009年2月】
▽県議会一般質問での答弁で、達増拓也知事がILC計画に関連し北上山地の地質条件調査の実施や資料提供を明言。北上山地がILCの有力候補地の一つであることが公の場で示される
【2009年4月】
▽東北加速器基礎科学研究会が発足。産学官民連携による誘致活動の礎ができる
【2009年6月】
▽PSG加速器科学研究会を奥州市文化会館(Zホール)で初開催。高エネルギー加速器研究機構(KEK)の吉岡正和特任教授(当時)が講演。ILC有力候 補地の地元で初めて、素粒子研究の専門家が一般市民に計画の全容を明らかにする。以後、同様の講演会が開催されるようになる
【2010年1月】
▽奥州商工会議所がKEKを初めて訪問し、ILC関連装置の開発状況などを視察
【2010年9月】
▽県と東北大学が北上山地地質調査を実施
【2011年5月】
▽3月11日の東日本大震災発生を受け、KEK鈴木厚人機構長が「ILCの推進活動は変わらない」と明言
【2011年6月】
▽県が国の復興構想会議で「TOHOKU国際科学技術研究」などの復興特区を提案。東北の誘致関係者はILCを「復興の象徴」と位置付けるようになる
【2011年7月】
▽ILC推進議連会長の与謝野馨経済財政担当相(肩書はいずれも当時)が「岩手県知事が(ILCを)率先してやりたい、日本はホスト国になるべきだとの考えを持っていることについては応援したいと思う」と述べる
▽東北加速器基礎科学研究会が初めて政府にILC誘致を要望
【2011年8月】
▽東京大の山下了准教授がZホールでの講演会で、地元熱意の必要性や政府間公式協議の早期実現を待望する姿勢をみせる
【2011年11月】
▽国が初めてILC関連の地質調査費として、5億円を第3次補正予算に計上
【2012年1月】
▽奥州市を拠点とした民間の推進組織「いわてILC加速器科学推進会議」が発足
▽ILC国際共同設計チーム(GDE)のバリー・バリッシュ氏らが北上山地を視察
【2012年2月】
▽県と県南8市町によるILC情報交換会が発足
【2012年4月】
▽市が、庁内にILC関連業務を担当する広域連携推進室を新設
【2012年5月】
▽国内の素粒子研究者が「ILC戦略会議」を設立
【2012年7月】
▽万物に質量を与える未確認の素粒子「ヒッグス粒子」とみられる粒子がスイスの欧州合同原子核研究所(CERN)で発見され、ILC建設への機運が高まる
▽市ILC推進連絡会議が発足
▽東北加速器基礎科学研究会が「東北ILC推進協議会」に移行。「ILCを核とした東北の将来ビジョン」を公表する
▽日本創成会議がILC誘致を契機とした国際都市創成の提言をまとめる
【2012年12月】
▽ILCの技術設計報告書(TDR)が完成し、東京で提出式が開かれる
▽国内候補地一本化のための地質調査が江刺区や一関市で始まる
【2013年1月】
▽国内候補地一本化作業の実施母体「ILC立地評価会議」をILC戦略会議内に設置
▽下村博文文科相が「今年前半にはILCについて関係諸国に働き掛けたい」との意向を表明
▽KEK鈴木機構長が「ここ1年が日本誘致に向けた勝負のとき。世界中が盛り上がっているときこそ、日本政府は動くべき」と早期の誘致表明を求める
▽欧州高エネルギー物理学将来構想案発表。ILC建設地として日本を支持。日本からの提言に期待
【2013年2月】
▽県ILC推進協が九州・脊振山地などを視察
▽各国の素粒子物理研究者らが新組織「リニアコライダー国際推進委員会(LCB)」と「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」を立ち上げ。政府間交渉に向け準備に入る
【2013年3月】
▽金ケ崎町もILC誘致に本腰
▽奥州市国際交流協会が主体となり、外国人市民だけで構成する「インターナショナルILCサポート委員会」を立ち上げ、外国人市民受け入れ時の課題などについて協議を開始
▽LCC最高責任者のリン・エバンス氏が来日し安倍晋三首相を表敬
【2013年4月】
▽市が、広域連携推進室をILC推進室に組織改編
▽経済同友会がILC実現に向けた意見書を発表
▽安倍首相が国会答弁で、ILC誘致について「研究者レベルの国際的な設計活動の進捗状況を見定めながら検討したい」と述べる
▽小沢昌記市長ら本県誘致関係者がスイスの素粒子研究施設CERNを視察
▽県内市町村議会がILC誘致推進議連を立ち上げ
▽ワシントンD.C.で政産官学連携・日米先端科学シンポジウム開催。ILC議連の河村建夫会長、下村文科相、日本創成会議座長の増田寛也氏(元岩手県知事)が講演
【2013年5月】
▽東北ILC推進協が都内でILC誘致シンポジウム開催
【2013年6月】
▽東北ILC推進協が省庁要望
▽日本学術会議が文科省の審議依頼を受け、ILCに関する検討委員会を設置。他研究分野への予算的影響などを懸念する声が出る
▽東北大が江刺区伊手で実施した地質調査結果を報告。北上山地の地盤がILC建設に適していることが裏付けられ、国内候補地絞り込み作業を担当するILC戦略会議に調査結果を提出
【2013年7月】
▽ILC立地評価会議が国際レビュー(海外の研究者論評会合)に提案する候補地を決定。CERNでレビューを実施し、後日、承認される
▽日本学術会議の協議動向を踏まえ、国内候補地選定結果発表が遅れる見通しが高まる
【2013年8月】
▽日本学術会議検討委の家泰弘委員長が第5回会合の終了後、報道陣に「ILCの日本誘致は時期尚早」とする見解を示す(その後、家委員長は胆江日日新聞社の取材に対し「誘致の最終判断時期は早いが、諸課題について国際交渉することは構わない」と答える)
▽日本学術会議検討委は、第6回会合でILCの研究意義は十分あるとの見解をまとめる。予算面や人材確保などの諸課題解決のため、政府間での予備交渉を開始するよう求め、その上で日本誘致を最終判断すべきとした
▽ILC立地評価会議が、候補地選定結果を委員全員一致で最終決定
▽国内候補地を「北上山地」とする選定結果を公表