候補地一本化、国は誘致判断先送り

産經新聞

  次世代加速器「国際リニアコライダー」(ILC)の研究者チームが国内候補地を東北の北上山地に決めたことで、今後は国が誘致の是非をいつ判断す るかが焦点になる。地元の経済界などは早期誘致に期待を寄せるが、巨額の建設費に対する批判や、費用の負担率をめぐる国際的な駆け引きも予想され、国は最 終判断を先送りする見通しだ。

ILCは8300億円の建設費のほか、年間360億円の運営費が必要で、さらに人件費や土地代などを含めると総額は1兆円規模に及ぶ。研究者チームは建設費に占める誘致国の負担率を約半分とみているが、具体的な比率は今後の政府間交渉に委ねられる。

文部科学省の担当者は「日本がやりたいと早々に言ってしまったら、他国に足元を見られ、負担額をつり上げられるのは間違いない。軽々しく誘致表明できない」と明かす。当面は欧米などの出方を注意深く見守り、条件闘争の機会をうかがうことになりそうだ。

研究者チームの山下了東大准教授は「このタイミングを逃したらチャンスはない。国は早く一歩を踏み出してほしい」と話す。

日本学術会議の検討委員会が今月示した「時期尚早」との見解も、誘致の判断を遅らせる一因だ。文科省の依頼を受けて議論を重ね、まとめた見解だけに同省も尊重する方針で、判断の時期は見えない。

検討委の慎重論の背景には、他の科学予算が削減されることへの根強い警戒感がある。日本学術会議は多様な分野の科学者で構成されており、巨額の建設費のしわ寄せを受けてはたまらない、との思惑もにじむ。

一方、国内候補地は北上山地で最終決着するとは限らない。過去には巨大プロジェクトの国際熱核融合実験炉(ITER)の誘致をめぐり、専門家が茨城県を最適地に選んだが、政治判断で青森県に覆った例があり、決着にはなお曲折も予想される。