ILC建設に向け準備着々 九大、高エネ研と連携協定 福岡

産經新聞

 

 

■有川学長「国家的技術力の向上へ」

宇 宙誕生の謎を解明する巨大実験施設「国際リニアコライダー」(ILC)の脊振山地(福岡、 佐賀両県)への誘致活動が過熱する中、九州大学は16日、高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市、高エネ研)と共同研究推進などを目的とする連携協 定を結んだ。高エネ研の加速器技術の提供を受け、素粒子研究分野をより強化させ、ILC完成までに世界有数の研究者を育てる狙いがある。ILC受け入れに 向け、準備は着々と進みつつある。(田中一世)

「素粒子実験はILC計画やヒッグス粒子発見で注目されている分野なので協定は非常に有意義だ。研究を推進し、基礎科学の発展と国家的技術力の向上につなげたい」

16日午後、福岡市東区の九大箱崎キャンパスで行われた協定書の調印式で、九州大の有川節夫学長は誇らしげにこう語った。高エネ研の鈴木厚人機構長も「高エネ研には優秀な専門家が大勢いるので大学に派遣し研究に生かしたい」と語った。

高エネ研は昭和46年、大学共同利用機関として設立され、個々の大学では維持が難しい大型加速器などを有し、国内の研究者に研究の場を提供している。協定を結ぶのは九州の大学では九大が初めて。

◆素粒子実験を強化

九大にとって協定を結ぶメリットは大きい。旧帝国大学の流れをくみ、九州最大の総合大学ながら「基礎科学、特にビッグサイエンス分野が手薄だった」(有川学長)からだ。

宇宙の成り立ちを解き明かす素粒子物理学は究極のビッグサイエンスだといえる。高エネ研の加速器技術を熟知する専門家を派遣してもらったり、装置を提供してもらえば、研究教育を大幅に強化し、優秀な研究者を育てることができるようになるという。

九大が協定を結んだ理由はもう一つある。

欧 米、アジアの国際研究者グループ「リニアコライダー・コラボレーション」(LCC)は、欧州合同原子核研究機関(CERN)がスイス・ジュネーブ郊外で 運営する大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を凌駕するILCを日本に建設してもらいたいとの意向を示しているからだ。日本の候補地は脊振山地と北上山地 (岩手県)の2つに絞られており、政府が受け入れを判断すれば、2分の1の確率で福岡・佐賀両県にまたがる巨大な研究施設ができることになる。

こ のため、九大は2年前から加速器を用いた素粒子実験を急ピッチで進めてきた。平成23年4月、素粒子実験で国内トップクラスの川越清以教授を神戸大学か ら招聘(しょうへい)。24年4月には国際共同研究への参加を見据え、研究グループ「素粒子・原子核研究特区」を設置し、全国から優秀な若手研究者らの登 用を進めた。

◆人材供給拠点に

昨年10月には、このグループをさらに発展させ、研究教育拠点となる「先端素粒子物理研究センター」を設立した。センター長に就任した川越氏は、学内の理学、工学、経済学分野の研究者19人を集め、LHCでの実験にも積極的に研究者を送り込んできた。

川越氏は「協定はILCの脊振山地への誘致とは別の話だ」とうそぶくが、ILCを意識していないはずはない。ILC誘致を進める福岡県新産業・技術振興課の担当者も「素粒子物理学の研究強化はILCで力を入れていくという意思表示の意味も当然あるはずだ」と打ち明ける。

脊振山地でのILC建設が決定すれば、九大は当然ILCを支える人材の供給拠点となる。それまでに研究者や技術者を急ピッチで育成する必要があるのだ。

ILCをめぐっては、国内研究者でつくる「ILC立地評価会議」が、地盤や都市機能などを科学的に評価する「適地評価書」作りを進めており、7月までに政府に提出する予定だ。

こ れを見据え、福岡県の小川洋、佐賀県の古川康両知事は13日、CERNを訪れ、脊振周辺の住居、医療、交通機能などの充実ぶりをアピールした。ロルフ・ ホイヤー所長も「住居や子供の教育など家族の暮らしを重視している」と色気たっぷりの返答を寄せた。学術機関だけでなく自治体や地元財界を巻き込んだ誘致 合戦はますます熱を帯びつつある。