最先端の国際研究拠点をどう生かすか。東北、日本の未来を切り開く道しるべとなる発言と受け止めていいだろう。
研究拠点は世界に1カ所だけ建設される超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」。東北の産学官が岩手県南部の北上山地への誘致を目指す。
「ILCは産業集積が進む米国のシリコンバレーも目標にしていく」。仙台市で4月下旬にあったシンポジウムで、国内誘致を進める科学者組織、ILC戦略会議の山下了議長(東大准教授)はこう語った。
ILCは地下100メートルの直線トンネル内に、全長31キロの加速器を設置。電子と陽電子をほぼ光速で衝突させ、大爆発(ビッグバン)直後を再現し、宇宙の始まりを探る。
スイス、フランス国境に位置する欧州合同原子核研究所(CERN、セルン)の円形加速器LHCの後継とされる。
万物に質量(重さ)を与えたとされる「ヒッグス粒子」の詳細研究のほか、宇宙の全質量の2割超を占める「暗黒物質」など正体不明の物質を解明する役割も期待される。
建設費は約8300億円。産学官組織の東北ILC推進協議会の試算では、建設から30年間の経済効果は4兆3000億円に上る。地域経済へのインパクトは絶大だ。
だが、東北誘致が実現しても、それだけで終わらせることはできない。加速器が使われている医療をはじめ、関連技術のさまざまな分野への応用と、東北への関連産業集積が問われる。
ILCは日本への建設が有力視され、国内では北上山地と九州の脊振山地(福岡、佐賀両県)が候補地となっている。
東北の産学官組織は既に、候補地に活断層はないなどとする資料を、ILC戦略会議に提出。同会議は両候補地を評価し、7月末までにどちらかに絞り込む見通しだ。
ILCを核にした産業集積の具体的な構想づくりは、候補地絞り込み、政府による誘致表明、国際合意による正式決定を経てからとなりそうだが、地元でアイデアを出し合う議論は早い段階で始めていい。
加速器技術は医療以外のどんな分野に生かせるのか、産業集積にはどんな制度が欠かせないのか。特区の必要性なども含め、活発な議論は東北の未来を描く壮大な作業になり、東日本大震災からの復興と発展につながるはずだ。
技術移転を通じた地域貢献は、1954年設立で歴史と実績のあるCERNも十分になし得ていない。決して簡単ではないからこそ挑む価値がある。
北上山地への誘致を進める東北ILC推進協議会の会員は88団体。自治体や大学、経済団体を除くと、民間ではゼネコンなど建設関連の企業が目立つ。
ベンチャー企業や市民グループもぜひ関わってほしい。東北の知を集めれば、ILCを核にした「東北版シリコンバレー構想」が動きだすことも決して夢ではない。