先進地CERNに学ぶ(5完)人材育成/共同研究に学生派遣

河北新報

 

<山形大が参加>
万物の質量(重さ)の起源とされる「ヒッグス粒子」の確認で知られる欧州合同原子核研究所(CERN=セルン)には、スイス・ ジュネーブ近郊の施設に世界100カ国以上の研究機関から派遣された研究者ら3000人が滞在する。継続的な研究に東北の大学で唯一参加しているのが山形 大だ。
「コンパス実験」と呼ばれる研究で、原子核を構成する陽子と中性子の構造を調べ、それぞれがなぜ自転するのかを解き明かす。12カ国の約240人が参加する共同プロジェクトで、日本からは山形大と宮崎大、中部大などから計12人が参加する。
実験棟はフランス側の地上部分にある。地下100メートルに建設され、ヒッグス粒子を生み出したCERNの円形加速器LHC(円周27キロ)のほぼ真ん中 に位置する。特殊なビームを陽子にぶつけ、巨大な測定器(高さ5メートル、長さ50メートル)でその反応をつぶさに調べる。
「われわれの実験はヒッグス粒子の研究にも関係がある」とコンパス日本グループ代表の岩田高広山形大理学部教授(53)。「LHCは陽子同士をぶつけてヒッグス粒子をたたき出すが、陽子の中身をよく知らないと本当の理解にはならない」と説明する。

<昨年度は7人>
こうした研究に加え、学生の人材育成でCERNを活用しているのが山形大の特徴だ。
2008年にCERNと締結した共同研究に関する協定に基づき、09年から学生の派遣事業を展開している。日本の大学でCERNと協定を結んでいるのは東大など数えるほどしかない。
理学部の学生から毎年1人か2人を選抜し、CERNに常駐する教員の研究室に置いた「山形大CERNオフィス」に派遣する。学生は約2週間にわたって現地の研究者の講義を受けたり、CERNで毎週開かれる研究者向けセミナーに参加したりする。
同オフィスの堂下典弘助教(38)は「期間が短いとはいえ、世界最先端の研究所で学ぶことは学生にとって貴重な体験だ」と強調する。
視野を広げるため、ジュネーブにある国連欧州本部も見学させている。案内役を務める同本部図書館司書の浅井由加さん(48)は「国際連盟から続く国連の歴史を知ってもらう。こうした場所を見るだけでも刺激になっているようだ」と話す。
これらの活動が大学本部に認められ、昨年度は理学部の7人を派遣することができた。

<復興の発信も>
東北の産学官は、LHCの次の加速器とされる直線形の「国際リニアコライダー(ILC)」を岩手県南部の北上山地へ誘致することを目指している。「誘致が実現すれば、われわれがCERNでやっていることを東北でできる」と堂下氏はみる。
誘致関係者の間では、東北大をはじめ国内外の大学がILCの研究所にサテライトの研究拠点を設けたり、学生を短期留学させたりすることを期待する声がある。東日本大震災の被災地にも近く、復興の現状を世界中の若い人たちに知ってもらう機会にもなる。
「国際的な環境の中で学んだ東北や世界中の若者が、どう次世代をひらいていくのか楽しみだ」

[コ ンパス実験]陽子や中性子を構成する素粒子(物質の最小単位)のクォークとグルーオンの自転を調べ、陽子や中性子の自転にどう影響するのかを調べる。実験 棟所在地はフランス。実験は2002年に始まった。日本グループは、特殊ビームの標的となる陽子の向きをそろえる基幹技術を開発した。