河北新報
<6カ国語対応>
4月中旬の夕方、フランスのフェルネー・ボルテール村にある国立の国際学校「リセ・インターナショナル」の駐車場は、下校する子どもを迎える家族らの車であふれた。ヨーロッパの高級車や外交官ナンバーの車も珍しくない。
同校では、フランス語の授業を基本としながら、国語と歴史・社会などの科目は、希望すれば別の言葉で学ぶことができる。
対応言語は英語やドイツ語、スペイン語などヨーロッパの6カ国語。言語部門ごとに教員を雇い、母国と同じような環境で学ばせる。
各言語部門を利用する子どもたちの親は、車で20分ほどの通勤圏であるスイス・ジュネーブにある大使館職員や多国籍企業の社員らが多い。帰国後、母国の学校にスムーズに戻れるよう、母国語を学ばせるのが主な理由だ。
世界最大の加速器LHCを使い、万物の質量を決めるヒッグス粒子とみられる物質を確認した欧州合同原子核研究所(CERN=セルン)の職員もいる。
英語部門では、小中高の児童生徒約810人が英語で授業を受ける。部門長のピーター・ウッドバーン氏は「複数の言語を学びやすく、かつ学ぶ意欲が起きやすい環境だ」と胸を張る。
<母国語を重視>
国際的な教育環境は、フランス語が母国語である地元の子どもたちにも好影響を与えている。ウッドバーン氏は「国際感覚が養われ、教育水準全体の底上げにつながっている」と言う。
ジュネーブにも、母国語を学ばせたいという外国人のニーズに応える私立のインターナショナルスクールがいくつもある。授業料は数百万円と高額だが、需要は高く、常に定員オーバーの状態だという。
ただ、こうした複数言語対応の学校に、すべての家庭が子どもを通わせるわけではない。母国語に対応していなければならず、経済的な事情もある。自宅から遠い場合、送り迎えできる環境かどうかも重要になる。
CERNで国際共同実験に参加する日本人研究者の家庭では、フランス語で授業する地元の公立校に通わせるケースが目立つ。日本語力の維持には、ジュネーブ市中心部にある日本語補習学校(児童生徒約330人)を利用することが多い。
<まず人材確保>
東北の産学官が岩手県南部の北上山地に誘致を目指す超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」が実現した場合は、どんな教育環境が必要になるだろうか。
日本語補習学校の竹内悟校長(54)は「仕事の内容や出身国、滞在予定期間、給料など親の状況はさまざま。学校は、子どもが就学前なのか、大学進学を控えているのかといった事情にも対応しなければならない」と指摘する。
提案するのは、インターナショナルスクールの新設や、公立校での外国人の受け入れといった受け皿の多角的な検討だ。
竹内氏は「インターナショナルスクールを一つ造るだけでも、教育内容や規模をどうするのか難しい問題だ。海外の教育事情に詳しい人材を確保し、ILCが本格的に動きだす前に準備しておくべきだ」と訴える。
[リ セ・インターナショナル]フランス各地にある国立の多言語対応学校(初等教育から高校まで)。国際セクションの中に、対応する言語ごとの部門がある。英語 部門の場合は保護者会が教員を雇用し運営する学校が多い。スペインやイタリアなどは本国政府が教員を雇い派遣している。