先進地CERNに学ぶ(1)多様性/国の枠超え宇宙に挑む

河北新報

 

 

<ドーム45個分>
4月中旬、スイス・フランス国境に位置する欧州合同原子核研究所(CERN)の研究成果を紹介する展示室は、地元の中高生らでにぎわっていた。
昨年7月、万物に質量(重さ)を与えたとされるヒッグス粒子とみられる新粒子を発見して以来、CERNの注目度は一気に上がった。視察や取材の申し込みがひっきりなしにある。
敷地は東京ドーム45個分(210ヘクタール)と広大だ。地下に、ヒッグス粒子を生み出した円周27キロの円形加速器LHCなどの大型装置がある。
研究者たちは、これらの装置を使って素粒子や原子核の研究をする。多くは「ユーザー」と呼ばれ、世界100カ国以上から年間1万1000人が訪れる。常時3000人以上が滞在する。

<暮らしも支援>
「研究者が世界中から集まり、平和に暮らしている」。LHC実験の責任者で、国際リニアコライダー(ILC)計画の推進組織の代表を務めるリン・エバンス氏は「多様性こそがCERN最大の特徴だ」と指摘する。
CERNでは、いろいろな国籍の研究者らがフランス語や英語で自由闊達(かったつ)に意見を戦わせる。向き合うのは、宇宙の謎の解明という人類共通の目的。多様性を尊重しつつ、成果を生み出す環境がそこにある。
外国から訪れる研究者をサポートする部署もある。ユーザーズ・オフィスの業務は、滞在許可証や労働許可証など研究者がCERNで働くのに必要な手続きの支援が中心。住宅や学校など生活関連情報を提供し、さまざまな相談にも応じる。
オフィスの責任者ドリス・クロメック・ブルクハルト氏は「手続き関係は受け入れ国のスイス、フランスと協力し、素早く対応している。研究者は入れ代わりで次々訪れるから」と笑う。

<来年設立60年>
CERNは来年、設立60周年を迎える。加速器を使って基礎科学を研究する高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)から派遣され、LHCを使ったアトラス実験に参加する佐々木修教授は「成果を生みながら発展してきた歴史の重みを感じる」と言う。
大小さまざまな加速器では、電子や陽子など衝突させるものを変えたり、改良を加えたりしながら施設を運用してきた。一流のエンジニアを雇い入れ、技術開発にも力を入れる。インターネット発祥の地としても有名だ。
佐々木氏は1年の半分をCERNで過ごす。出身地の奥州市には、東北が誘致を進めるILCの想定ルートが通る。「東北にILCを造るなら、研究所や周辺環境の整備も含め、内容や規模を段階的に拡充していけばいい。息の長い研究所になってほしい」と話した。

ILC の国内候補地が7月にも決まるのを前に、東北と九州の誘致合戦が熱を帯びている。震災復興を進める東北でのILC実現には何が必要なのか。先進事例 に学び、課題を探ろうと、世界的研究所のCERNと周辺自治体を訪れ、研究者の日常やまちづくりなどを見た。(報道部・久道真一)=5回続き

[欧 州合同原子核研究所(CERN=セルン)]1954年に設立され、欧州20カ国が加盟する。日本や米国などがオブザーバー参加。職員は約2500人。年間 予算は約1000億円。日本からはアトラス実験グループの約100人を含め約190人がCERNの実験に参加している。