読売新聞
外国人市民も誘致に一役
「ゴミ収集とか、日常生活に関する多言語ガイドブックがあった方がいいね」
「自治会の仕組みや、病院や銀行の利用方法をどうやって知ってもらうかが課題だ」
奥州市に住むイギリス人やフィリピン人ら6人が、口々にアイデアを披露した。
同 市水沢区のアメリカ人英語講師ビル・ルイスさん(44)らが3月29日、市の国際リニアコライダー(ILC)誘致活動を受け、「世界中から集ま る研究者を受け入れるヒントに」と企画した「外国人市民ILC会議」の一幕だ。20年前、日本人の妻と結婚して移り住んだビルさん自身、来日当初は和式ト イレの使い方に困惑した経験があるという。
市国際交流協会は、この会議で出た意見を基に、外国人が快適に暮らせるよう買い物や医療、交通 などに関する提言書を作成し、19日に市に提出す る。渡部千春事務局長は、「『もし隣に外国人が引っ越してきたら』と、市民に考えてもらう勉強会も企画したい」と張り切る。市は今月、ILC推進室を新設 し、官民一体での取り組みが盛り上がっている。
ビルさんはILC誘致に胸を膨らませる。「シャイな日本人は外国人との交流が得意な方ではない。でも、ILCで多くの外国人を迎えれば、お互いにプラスになる交流が何十年も続くでしょう」
北上山地周辺の自治体は、ILC建設による経済波及効果にも注目している。
野 村総合研究所の試算では、国内の経済効果は建設工事や社会基盤整備、商業やサービス業への波及などで総額4兆3000億円。県内でも1兆 3000億円に上るとされるからだ。一関商工会議所の高橋宏之常務理事は、「人口減少や高齢化を抱える地域が新しく生まれ変わる」と期待する。
一関市の勝部修市長は、県職員時代にILC関連の調査に携わっていた経験を生かし、自ら講演会を企画して市民への説明に駆け回っている。
17 日に藤沢地区で開いた講演会では、独自に作成したILC建設や都市計画の工程表を使い、「外国人向けの案内施設やバイパス整備が急務だ」と訴 えた。10~15日にはスイス・ジュネーブ郊外の欧州合同原子核研究機関(CERN)の県視察団に参加。「CERN訪問が2回目だったのは私だけ」と誇ら しげに笑う。今後も移動市長室などでILCのPRを続けるという。
海外の研究者が来日した場合、家族の居住環境にも配慮が必要だ。県は、外国人の児童生徒が通うインターナショナルスクールの設置を検討しており、18日には達増知事らが千葉・幕張を視察した。
一関市は今年度、専従職員を1人から3人に増員した。研究者には妻の雇用への要望が強いことから、受け入れプランを練る担当者に、新たに女性職員を起用。着任した小野寺順子・政策推進監は、「教育や住まいなど女性の視点を生かしたい」と意欲を語る。
東北の夢を乗せたILC。夏の国内候補地決定に向け、ラストスパートは始まっている。