「硬い岩盤」誘致で火花

読売新聞

「これは、うかうかしていられないな」
2007年10月、県の国際リニアコライダー(ILC)誘致の担当だった大平尚氏(現・首席ILC推進監)は、九州への誘致を目指す福岡、佐賀両県の研究会発足のニュースに接し、気を引き締めた。

ILC建設の国内候補地に挙がる北上山地(岩手、宮城)と脊振山地(福岡、佐賀)。県は当時、研究者間で北上が有力視されている情報を得ていたが、「他にどこが有力なのかは不明だった」(大平氏)のだ。

ライバルは、はっきりした。県は東北各県に呼びかけ、09年4月に6県の産学官が連携した研究会を結成。北上と脊振の一騎打ちの構図が固まった。

東日本大震災後の11年4月。首相官邸で開かれた政府の復興構想会議で、達増知事は切り出した。

「復興の象徴として、ILCを提案したい」

震災のわずか1か月後だっただけに出席者は目を丸くしたが、知事は、「国の最高指導層にILCをインプットしたかった」と振り返る。岩手、宮城両県は復興計画にILCを盛り込み、「東北再生に国家プロジェクトを」と意気込む。

一方、福岡、佐賀両県は、「九州は20年前から学術研究都市構想を掲げている」と口をそろえる。

佐賀県では小型の加速器を活用した解析施設が06年に稼働しているほか、福岡県は豊富な国際会議場や国内3位の発着便数を誇る福岡空港があり、「国際都市の機能を備えている」(県新産業・技術振興課)ことを前面に出す。

今夏の国内候補地の一本化に向けて誘致活動は熱を帯びるが、研究者グループの責任者であるILC戦略会議議長の山下了(さとる)・東大准教授は、「政策的判断はない。とことん技術的、科学的観点で決める」と、地盤の安定性を最優先の評価基準とする考えだ。

北 上、脊振両山地とも、地中には強固な花こう岩体を持つ。本県は03年から独自の地質調査を実施し、北上山地は50キロ以上にわたり活断層がな く、一枚岩でつながっていることを既に確認済みだ。対する脊振山地は岩盤が東西50キロ、南北24キロと広大で、佐賀県は「柔軟にトンネルを設計できる」 と訴える。

現在、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の地質調査が行われているが、近く出る中間結果は公表されない見通しだ。

「長年の独自調査で確かめた岩盤の質には自信がある。研究環境の分野でしっかり整備計画を作れば、勝てると信じている」。大平氏は力を込めた。

スイス・ジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究機関(CERN)。今月10~15日に訪れた県関係者35人の視察団の中には、奥州市の小沢昌記市長、一関市の勝部修市長もいた。

北上山地周辺の自治体では、ILC誘致による経済波及効果や国際交流の広がりに期待が高まっている。

3月29日、奥州市水沢区に20年住むアメリカ人英語講師のビル・ルイスさん(44)ら外国人市民6人が、市のILC誘致の取り組みを知り、集まった。(つづく)