暗黒物質 宇宙の謎解明に近づくか

西日本新聞

晴れた日の夜に空を見上げると、無数に光る星を見ることができる。

だが宇宙には、光や電波などでは全く捉えられない物質が大量に存在する。

「暗黒物質」と呼ばれるものだ。「ダークマター」ともいう。直接観測することができず、質量があることのほかは正体が全く分かっていない。

この謎の物質を追い求めている欧州合同原子核研究所(CERN)などの国際チームが、暗黒物質の存在をうかがわせる痕跡を観測したと発表した。事実が証明されれば、宇宙の謎を解き明かす大きな一歩になる。今後の展開が楽しみだ。

暗黒物質は未発見の素粒子とする説が有力で、互いが衝突すると大量の陽電子を放つとされる。

国際チームは上空約400キロにある有人施設「国際宇宙ステーション」に設置された特殊な装置を使い、宇宙を飛び交う粒子を調べた。

その結果、本来は宇宙空間に極めて数が少ないはずの陽電子が、理論の想定を上回って観測された。

パルサーと呼ばれる天体なども、陽電子を出すことが知られている。しかし、今回は特定の方向から飛んできておらず、国際チームは宇宙に広く分布する暗黒物質による可能性が高いとみている。

ただ、結論を出すにはデータ不足で、他の天体に起因する可能性も否定できないという。さらなる調査に期待したい。

最新の宇宙論では、暗黒物質は宇宙全体の約27%を占める。星や銀河などをつくったり、私たちが見たりできる物質は約5%しかないという。残る約68%は、宇宙膨張を加速させる仮想エネルギーの「暗黒エネルギー」と考えられている。

回転する銀河が、遠心力でばらばらにならないのはなぜか。遠くにある天体からの光が地球へ届く途中に、どうして重力で曲げられているのか。人間の知らない重力を生じさせる物質が、宇宙にあるのではないか-。そんな疑問に答えるべく提唱されたのが、暗黒物質である。

ビッグバンから数億年後に最初の星や銀河が誕生したのも、暗黒物質の重力の影響といわれている。

私たちの生活には直接関係ないように思える話でもあるが、宇宙の謎を解くことは、生命の誕生に関係することでもある。やはり興味は尽きない。

九州にとっても、暗黒物質は無縁ではない。宇宙の成り立ちを調べる次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の建設計画では、佐賀・福岡両県の脊振山地が国内の候補地になっている。

ILCは長さ約30キロの直線状の地下トンネルに設置する超電導加速器で電子と陽電子を光のスピード近くまで加速して正面衝突させ、宇宙初期と同じような高エネルギー状態を再現するものだ。そこから生まれるさまざまな素粒子を検出器で調べ、暗黒物質などを研究する。

宇宙の謎にどこまで迫れるか。期待と関心を持って研究の成果を見守りたい。