巨大直線加速器、日本が頼り 研究者代表、首相に直訴

朝日新聞

史 上最大の直線型加速器「国際リニアコライダー」(ILC)の誘致に向けた動きが本格化している。宇宙の成り立ちのなぞに迫る夢の施設だが、8千億 円ともされる建設費に各国とも二の足を踏む一方、日本では、建設や運用に伴う経済効果を当て込み、自治体や国会議員が盛んに誘致活動を展開している。

ILC の建設を目指すのは、2月に発足したばかりの研究者の国際組織リニアコライダー・コラボレーション(LCC)だ。昨年12月に作成した加速器の設 計書を元に、日米欧など世界5カ所の建設候補地を一つに絞り、詳細な設計をする。その後、候補地の国が誘致するかどうかを決断する。

そのLCCのトップ、リン・エバンス氏が3月末に来日、安倍晋三首相を表敬訪問した。エバンス氏は3月、万物に重さを与えたとされる「ヒッグス粒子」の事実上の発見宣言をした欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型円形加速器LHCの責任者でもある。

LHCは日米欧などが5千億円を拠出する国際協力で完成した。エバンス氏は「LHCは日本の貢献なしにはできなかった」と話し、ILC建設での日本への期待を首相に伝えた。

■不況で欧米低調

国際協力で作る巨額の実験施設は過去、誘致をめぐって綱引きが繰り広げられた。建設と運用に1兆6千億円以上かかるとされる国際熱核融合実験炉(ITER)では、誘致合戦の末、建設地はフランスに決定。日本は敗れたが、建設期9%、運転期13%の費用負担を約束した。

だが、今回は様相が違う。研究者にとって、LHCでのヒッグス粒子探しが一段落した今、間断なく実験を進めるには新たな実験装置がぜひとも必要だが、世界的な不況で欧米とも財源のめどが立っていない。

頼 みの綱が日本だ。日本では、東北地方の北上山地と、福岡県と佐賀県をまたぐ脊振(せふり)山地が候補地に挙がっている。東北では、各県などで作る協議 会が、建設から30年間で4・3兆円の経済効果と25万人の雇用が生まれると試算しており、地元財界や自治体が国に陳情を続けている。九州でも、学界や経 済界が誘致組織を結成した。

国会議員も、超党派の「リニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟」(会長=河村建夫・自民党衆院議員)を結成。高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)を訪ねて加速器の見学会を開くなど熱心に活動を続ける。

■「他国も資金を」

仮に日本に建設する場合、建設費の4~5割を負担するのが国際的な慣例だが、負担割合はまだ決まっていない。国は慎重姿勢だ。下村博文文部科学相は「誘致したい」と述べる一方で、「関係国にも資金を出してもらいたい。関係国に働きかけながら準備を考える」としている。

お金の問題だけではない。巨額出費のあおりで研究予算の減額が予想される研究者が反発する懸念から、誘致に慎重論が出る可能性もある。

エバンス氏自身、「LHCの時も日本の貢献を取り付けるのに2年の交渉が必要だった。ILCも合意まで2、3年かかるだろう」と、交渉の難しさは認めている。(田中誠士、波多野陽)

■ヒッグス粒子とらえ、宇宙の謎に迫る

ILCは31キロのトンネルの両端から、電子と、電子とは逆の正の電荷を持つ陽電子を入れ、光速近くまで加速して衝突させ、飛び出てくる様々な粒子を観測する装置だ。

最大のお目当てはヒッグス粒子の研究。LHCは複数の素粒子が集まった陽子をぶつけるため、余計な事象が多く起こり、ヒッグス粒子を見つける確率は低いが、より小さな電子と陽電子をぶつけるILCでは8割以上の確率で検出できる。

例えれば、LHCはまんじゅう同士をぶつけて飛び出るあんこを見ているが、本当に見たいのは小豆同士の衝突。ILCではそれができる。ただ、電気を帯びた電子や陽電子は進路が曲がるとエネルギーを損するので、ILCは直線型になっている。

ILCだと1日に1個の割合でとらえられるため、ヒッグス粒子の性質を詳しく調べ、宇宙がなぜ今の姿をしているのかという問いに迫ることができる。