≪短期連載「私とILC」~1≫  あのCG、私が作りました(堀内営さん)

胆江日日ILCニュース

空想科学や未来の乗り物などを数多く描いたイラストレーター小松崎茂氏(1915~2001)。誰も見たことがない空想の世界、未来の姿を目に見える形にした。少年雑誌やプラモデルの箱絵などに使われ、高度経済成長期の子供たちをくぎ付けにさせた。
小松崎氏のイラストと同様のわくわく感をかきたてられるのが、ILC関連のパンフレットに描かれたコンピューターグラフィックス(CG)。その画像の多くには、片隅に小さく「(C)Rey.Hori/KEK」と書かれている。
KEKはILC計画を推進している高エネルギー加速器研究機構のことだが、Rey.Hori(レイ・ホリ)は一連のCGを手掛けた堀内営(まもる)さん(50)のビジネスネームだ。
大阪府出身。鳥取大学工学部生産機械工学科を卒業後、富士通に入社。業務用プリンターの設計開発に従事する傍ら、プライベートでCG制作を趣味としていた。
1997年、富士通を退社しフリーのCG作家として活動を始める中、KEKのILC担当者が堀内さんのホームページを発見。ILCの広報用パンフレットのイラスト制作を依頼した。
「加速器という装置があるのは知っていたが、ILCとは何物なのか、まったく知らなかった」(堀内さん)
自宅がある川崎市から茨城県つくば市のKEKに出向き、研究者から装置の概要を聞きながら作業を進める。サラリーマン時代に機械設計に携わっていたとはいえ、全長30kmという規模の装置は未経験。全体像をすぐに把握しきれなかった。
KEKが最近作製したパンフレットの表紙には、加速器トンネル内に立ち入った時の視線を再現したCGが印刷された。片側だけで15kmもある直線状の加速器トンネル。だが、この画像で堀内さんが描いた世界は、わずか900mにすぎない。
「これまでは外側から眺める絵だけだった。スケールを実感してもらおうと試作したものが採用された」。ILCがどれだけの規模の施設なのかひと目で実感できる。
CG制作という仕事を通じ、ILCが目指すものの意義をかみしめる。「何度も仕事をこなしているうちに、『えらい規模の話だなあ』と感じるようになった。ILCのようにパブリックな目的で使われる装置だと余計に『もっといい絵にしたい』と感じてくる」
残念に思うのは、ILCのような最先端の研究が一般市民に広く知られていないことだという。
「KEKに向かう途中タクシーの運転手が『ここって何やっているの?』と尋ねてきた」。学術研究都市を掲げるつくば市で、研究機関と地元の一般住民との間 に心理的な距離を感じた堀内さん。私たちの身の回りにあふれる生活必需品も、元をたどれば科学研究と技術開発の地道な努力の積み重ねの上にあるものだが 「科学研究は日常生活に縁遠い存在」と思う人は少なくない。ILC誘致を推進している東北地方でも、地域間の熱意に温度差があり、人々の関心度にも開きが ある。
「こうした取り組みはもっとPRすべきだ。その手助けに、私のCGが少しでも足しになればと思う。『加速器を書かせるならRey.Horiに頼め』と世界の研究者から指名されるよう、今後も頑張っていきたい」と気合を込める。
北上山地に「国際リニアコライ ダー(ILC)」を誘致する運動が繰り広げられています。誘致活動にはさまざまな立場の人が携わっています。「有力候補地」とその周辺に住む私たちにはな かなか気付きにくいことも含め、ILCがもたらす効果や候補地として取り組むべき施策、住民個々に求められることなどについて、誘致関係者にインタビュー しました。毎週金曜日、5回に分け連載します。