岩 手県南部の北上山地への誘致が期待される超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」計画で、22日発足した国際推進組織の物理・測定器部門の ディレクターに東北大の山本均教授が就任した。国内候補地の一本化に向けた科学者グループの共同議長も務める山本氏に、ILC誘致の意義や今後の見通しな どを聞いた。(聞き手は盛岡総局・久道真一)
◎学術都市1万人規模/生活環境整備が重要
-昨年7月、欧州合同原子核研究所(CERN)の大型加速器LHCで、質量の起源とされるヒッグス粒子らしい新粒子が見つかった。
「電子や原子核の発見と同じくらい、新たな学問、新しい素粒子時代を開いた発見だった。今後は新粒子をどれだけ精密に調べられるかが重要。ILCはLHCの数百倍の能力があり、次世代加速器として世界の科学者が切望している」
「昨年末に技術設計書が完成し、ILC計画は研究・開発から実行の段階に入った。今年1月には下村博文文部科学相が日本誘致に前向きな発言をし、各国の研究者が日本に期待している」
-東北に巨大施設を誘致する意義は何か。
「世界最先端の研究所と、それに付随して1万人規模の国際学術都市ができる。東北が世界的に最先端の地域になるという、象徴的な意義が大きい。それに誘発されて優秀な技術を持った企業、人材が集まる可能性を秘めている」
「欧州のCERNでは『科学観光』が大きな活動になっており、年間何万人もの人がCERNとその周辺を訪れている。ILCが実現すれば、東北でも確実に科学観光が生まれるだろう」
「ILCはほぼ岩手県内に造られるが、隣接する宮城県にも大きな影響を与える。宮城県に住む研究者や家族もいるだろうし、進出する企業もあるだろう。とりわけ都市機能が整備された仙台市が果たす役割は大きいはずだ」
-今夏の候補地一本化に向け、共同議長を務めるILC立地評価会議で北上山地と九州の脊振山地を調査している。
「評価基準の一つが技術評価で、地質や建設する際の運搬道路などのインフラを調べる。次は経済評価で、研究者のための住宅、医療、教育などの生活環境を評価する。それらを点数化するなどして優劣をつけたい。評価結果は日本政府の最終決断でも大きな意味を持つと期待する」
「難しいのは経済評価で、現状の生活環境に加え、将来の国際的なまちづくりのプランがあるかどうかも重要だ。東北が一体となって、民間投資を活用した現実性のあるプランづくりを真剣に考えてほしい」
[ILC]全長31~50キロの地下トンネルに設置する線形加速器。ほぼ光速で正面衝突させた電子、陽電子の反応を調べ宇宙の起源を探る。建設費は約8300億円。国際協力で世界に1カ所建設する。
<やまもと・ひとし>京大理学部卒。ハーバード大准教授、ハワイ大教授を経て、01年から東北大大学院理学研究科教授。ILC国際実験計画組織アジア代表を務めた。58歳。大阪市出身。