時代の風:超巨大加速器=前岩手県知事・増田寛也

毎日新聞

 ◇科学技術立国の拠点に

 スイスのジュネーブ郊外に世界から1万人の研究者が集まるCERN(欧州合同原子核研究所)と呼ばれる研究所がある。円形で山手線と同じ周長27キロにおよぶ世界最大の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を持ち、昨年、「ヒッグス粒子と見られる新粒子が確認された」と発表して世界中で大ニュースとなったあの研究所である。私も昨年、視察する機会があった。

 ヒッグス粒子の発見により人類は一歩、宇宙の謎に近づいたが、それでも宇宙を構成する物質は4%しか解明できていないという。さらなる研究のためには、LHCを上回る性能の次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」が必要となる。ILCはその名の通り直線の加速器で、花こう岩層地下100メートルに全長30キロのトンネルを掘り超電導加速器を配置する。衝突精度はナノ・レベルで、電子と陽電子を衝突させ宇宙の始まりから1兆分の1秒を再現し、ダークマターと呼ばれる未知の粒子の発見が期待されている。

 ILCは、建設期間10年、総額8000億円(うちホスト国負担50%程度)のビッグ・プロジェクトで、以前から日米欧の科学者が協力し、世界に一つだけ建設する計画で検討が進められてきた。昨年12月には国際チームによる技術設計が完了し、いよいよ建設に向けた調整に入る。世界の研究者の間では、素粒子物理学の分野で湯川秀樹博士以来何人ものノーベル賞受賞者による優れた研究実績があり、高い技術力を持つ日本での建設が期待されている。地質調査から、岩手県の北上山地と福岡・佐賀県境の脊振(せふり)山地の2カ所が具体的な候補地として既に挙げられている。

 ILCの日本での立地の意義は、基礎科学の研究分野にとどまらない。医療では、PET(陽電子放射断層撮影装置)やがん治療装置、タミフルなどの創薬に利用され、東京大学の試算では、日本の工業製品分野300兆円のうち70兆円の分野で加速器技術が応用されている。ILCをコアに加速器関連産業を集約し、自動車産業と並ぶ中核産業への発展が期待できる。また、加速器を使い、10万年といわれる放射性廃棄物の半減期を数百年単位に短縮する研究も進んでいる。実現されれば福島第1原発の処理のあり方も大きく変わる。