ILCを東北へ(下)シンボル/知の拠点づくり目標

河北新報

<「復興のため」>
 北上山地の地下100メートルにトンネルが建設され、全長31キロの線形加速器が真っすぐに延びる。
 産学官でつくる「東北ILC推進協議会」が誘致を目指す超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の完成後の姿だ。
 推進協のメンバー26人が昨年11月、奥州市江刺区の標高700メートルの阿原山展望台を訪れた。目の前に広がる北上山地を眺め、候補地の現状を確認した。
 「ILCの立地は、社会や経済への広がりが大きい。復興のためにも誘致したい」。推進協の宇部文雄代表補佐(東北経済連合会副会長)は力を込めた。
 推進協が昨年7月にまとめた将来ビジョンによると、建設からの30年で経済波及効果は約4兆3000億円、誘発される雇用創出は約25万人。こうした直接的なメリットに加え、最先端技術や世界の研究者が集まるILCをきっかけにした地域づくりを目標に掲げる。

<新産業創出も>
 岩手県政策推進室の大平尚・首席ILC推進監は「東日本大震災で人口が流出した状況を変えるには、産業を呼び込まないといけない」と加速器関連技術を活用した新産業の創出を訴える。
 震災被害が大きい岩手、宮城、福島の3県をはじめ、東北には自動車や半導体、医療の各分野で産業集積が進む。既存の技術力と最先端技術が結び付けば、「加速器関連産業の先進地」という新たな地平に道が開ける。
 日本の産業に変革をもたらし、科学技術立国を立て直す機会にもなる。産業界でも「ILCの技術や知識を産業に取り込み、次の日本が生きる基にしたい」(西岡喬・三菱重工業相談役)と期待が膨らむ。
 ただ、基礎科学の分野は産業化が難しい。大型円形加速器を使い、物質に質量を与えるヒッグス粒子とみられる物質を発見した欧州合同原子核研究所(CERN、スイス)でさえ、関連産業の形成には至っていない。
 東北大大学院理学研究科の山本均教授は「CERNには当初、技術移転の発想がなかった。その反省を踏まえ、今から産業化を意識した取り組みが求められる」と指摘する。ILCを運営する国際研究所と国、自治体、企業が連携し、先端技術の民間移転を促す組織づくりの必要性を説く。