ILCを東北へ(中)国際都市/人・技術・モノを誘引

河北新報

<1万人が滞在>
奥州市の奥州宇宙遊学館で19日、同市や周辺に住む外国人らを対象に、国際プロジェクトで建設される超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の研修会が開かれた。国際交流関係者を含む約60人を前に、高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市、KEK)の横谷馨名誉教授が英語で講演した。
研修会を主催した市国際交流協会の佐藤剛会長は「参加者にILCを知ってもらい、一緒に外国人に優しい地域をつくりたい」と狙いを語った。
岩手県南部の北上山地にILCが建設されると、世界各国から研究者とその家族ら約1万人が常時滞在することになる。
研究機関を核とする国際都市の青写真をどう描くか。先例となるのが欧州合同原子核研究所(CERN、スイス)だ。
CERNは昨年7月、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使い、万物の質量を決めるヒッグス粒子とみられる物質を確認した。素粒子物理では世界最大の研究拠点で、欧州各国、イスラエル、米国、日本、韓国、中国など50カ国以上から研究者が集まる。
「CERNのように、イデオロギーや国境を越えた国際研究所は日本にはない。ILC誘致は日本が生まれ変わるきっかけになる」。東大素粒子物理国際研究センターの山下了准教授は語る。
約6年半にわたるCERNでの研究経験がある山下氏。ILCについて「欧州中心で始まったCERNよりもさらに国際的になる。人、技術、モノを集める力はものすごいだろう」と予測する。

<発信の好機に>
優れた頭脳を引き付けると同時に、人や情報が世界に広がる。東北大大学院理学研究科の佐貫智行准教授は「外国の人は東北をほとんど知らない。ILCとセットで、東北や日本の良さを世界に知ってもらう機会にもなる」と話す。
地元に求められるのは、研究者ら外国人の受け入れ態勢だ。英語で受けられる教育機関や医療施設の充実、住環境の整備などが望まれる。
北上山地のライバルで、九州の脊振(せふり)山地へのILC誘致を目指す福岡県は、空港や港湾の整備など国際化を進めてきた。同県は「インターナショナルスクール、英語対応の医療機関など生活基盤は既にそろっている」と胸を張る。

<連携が不可欠>
インフラ整備で劣る東北には、誘致の熱意と広域的な連携が不可欠だ。
北上山地のILC想定ルートが通る一関市。勝部修市長は「海外の研究者と家族にとって、都市機能の面で仙台が有力な居住地の一つ」と指摘するとともに「誘致に当たっては多様な選択肢を用意すべきだ」と強調する。受け皿となるべく、県境を越え気仙沼市や栗原市などとの連携も視野に入れる。
昨年10月に来日したCERN所長のロルフ・ホイヤー氏は、東大で行われたILCシンポジウムで日本に誘致する好機であることを強調した。
「ヒッグス粒子発見」の責任者として、最も発信力のある科学者はこうエールを送った。
「(建設地は)外国から来ても生活していける環境であることを証明しなければならない。それを負担ではなく、チャンスととらえてほしい」

[CERN]50年ほど前から整備が始まった世界最大の素粒子物理の研究所。スイス・フランス国境にLHCなどの実験施設を持つ。欧州20カ国で運営し、日本や米国などがオブザーバー参加。6000人の研究者が常時滞在し、家族を含めると数万人規模になる。